けれど、瑠海の誕生日でロックは解除されなかった。

 それもそのはずだ。

 僕の幼少期の代物だ、瑠海はまだこの世に生を受けていない。



 幼いながら秘密主義者だった僕は両親の知る自分の誕生日を鍵にするはずがないけれど、もしかしたら僕のことを盗み見して鍵を知っていた母親が変えた可能性もなくはないと思い、瑠海の手から南京錠を受け取る。



 自分の誕生日である1010に数字を合わせ、妙な緊張感に包まれながら金庫を塞ぐ南京錠を引っ張った。



「あ、開いた!」



 僕の予想を覆し、南京錠は外れた。



 簡単に取れた鍵に呆然とする僕を差し置いて、瑠海はばっと僕の手を南京錠から離させた。

 好奇心を爆発させた瑠海の勢いに押されて彼女の行動をじっと見つめていれば、瑠海は金庫の扉を躊躇なく開ける。



「瑠海…!」



 心の準備と言えば大袈裟だけれど、相応の感情が沸きあがって思わず瑠海の手首を掴んだ。

 しかし、遅かった。

 初めこそ驚いた様子で僕を見あげた彼女だったけれど、すぐにその瞳は気になる金庫へと移り、僕も同時にあるものを見つけてしまった。



「お兄のー?」



 間延びした瑠海の声もどこか遠くで聞こえているようで、するりと力をなくした指先から瑠海の腕が膝の上に落ちた。