僕が座るソファにそっと置かれたそれは、想像より遥かに懐かしく、同時に当時の自分を思い出してこっ恥ずかしくなる。

 物置の奥に眠っていたらしいそれは、ところどころ薄汚れながらも記憶の中の姿そのものだった。



「お兄、これなあに?」



 我も忘れて金庫を見つめていると、瑠海が僕の膝にしがみついて聞く。

 その上目使いに視線を落として、僕は小さく笑った。



「僕が瑠海と同じぐらい小さかったときのオモチャかな」

「お兄の?開けて!」



 恐らく中はガラクタばかりだろうと考えながら、瑠海に催促されて金庫の鍵に手を伸ばす。

 しかし、わからなかった。

 金庫を閉じるのはダイヤル式の鍵。その四桁は、僕の記憶から綺麗に忘れ去られていた。



「葉月さん、これ、何か試した?」



 金庫を置いたきりソファの背もたれの向こうに立ち、黙って僕たちを見下ろしていた彼女を見あげる。

 けれど、葉月さんは首を横に振った。



「そらくんのものだといけないと思ったので、見つけてから鍵は一度も…」



 少し眉を寄せて言う葉月さんに軽く頷き返すと、唐突に瑠海が言った。



「瑠海の誕生日!」



 閃いたように叫ぶと、僕の手から奪った鍵のダイヤルを回す瑠海。

 彼女の誕生日は0822。

 一生懸命に両手でダイヤルを合わせる小さな手許を、じっと見つめる。