「任意、されないおつもりなのですか?」



 後藤さんは、僕の言葉を聞いて眉を顰めた。

 それは、疑うようでありながらどこか落ち着きがなく心配そうだ。



 僕は、わざと考えるフリをした。

 本当は全く答えなど見つかっていないし、任意云々ではなく、それ以前に彼女との関係を見直す必要があると思う。

 だから僕は、溜めに溜めて首を横に振った。



「今はまだ、何とも」

「そう…ですか」



 果たして何に納得したのかは僕には判断しかねるけれど、浅く頷いて僅かに肩の力を抜いた彼を見ると少しほっとした。

 恐らく、もう口出しはして来ない。

 後藤さんは素直な人間だ。下手に探りを入れるくらいなら、単刀直入に訊ねて来るはずだ。

 そうですかと切られた会話からして、彼の中では一旦この話題に区切りがついたとみて間違いない。



「…他に、何か変わったことは?」



 早々に話を変えた後藤さんは、ほんの少し首を傾げる。

 特になかったと答えようとしたとき、パーカのポケットの中の携帯が衣服に擦れて鈍いバイブ音を奏でた。



 後藤さんに目でどうぞと促されて携帯を取り出せば、表示は葉月さん。

 瑠海が何か悪さでもしたのかと思案しながら、僕は着信を取った。