静かにリビングへ戻ると、瑠海は真依子を自身が座るソファの隣に座らせてアニメを見ていた。
画面に映るキャラクターの名前を真依子に教えては、ここ最近では見せたことのない笑顔を浮かべる。
僕は彼女たちから逃げるようにキッチンへ入ると、カウンター越しにふたりを見遣りながらネイビーのマグカップとピンクのプラスチックのコップを用意した。
冷蔵庫を開けて市販のカフェオレのパックに伸びた手が、無意識に停止する。
妊娠には詳しくないし、コーヒーがいいものなのか悪いものなのか答えを出せずに、結局無難にお茶のペットボトルを取り出した。
こんなことすらわからない自分が無性に情けなく、瑠海のコップにも同じくお茶を注いだ。
「瑠海もお姉ちゃんになれるー?」
コップを両手にキッチンを出た途端、瑠海の不思議そうな声がそう言った。
思わずコップを床へ落下させてしまいそうになるほど驚愕したけれど、何とか平然を保ったままふたりへ近づく。
「うーん。どうかしら」
「瑠海もお姉ちゃんになりたいなー」
真依子の苦笑を見つめながらコップをテーブルに置くと、ちらりと僕を見た真依子の猫目がテレビ画面を示した。
スライドさせた視線で画面を確認すると、主人公の女の子に妹が出来るというストーリーが流れていた。
どきっとした。
何も知らない瑠海が悪魔に思えるほどに、どきっとした。
