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 真依子は、きっちり正午に家を訪れた。

 瑠海への手土産(コンビニスイーツをふたつ)を持ち、妊娠を告げた日と同じヒールの低いパンプスを履いて。

 今思えば、あのとき既にそのパンプスが妊娠を示していたのだ。迂闊ながら気づかなかった。



 ドアを開けた僕に、彼女は小さく笑いながら言った。



『顔。怖いわよ』



 それこそ馬鹿にするように、真依子は僕を軽くからかって玄関に入った。

 僕は少しの間そこから動けなくて、気づいたときにはリビングから瑠海の無邪気な声が静寂とした廊下に響いていた。



 静かにドアを閉めて戸締まりし、何度目かわからないため息を吐く。



 彼女は、どう考えているのだろう。

 僕の意見を飲むというスタンスで構えているように見える真依子は、子供を産みたいと思っているのか、それとも…。



 決して安易に産んで欲しいとはまだ言えないけれど、逆の決断は考えたくもないほど胸が苦しくなる。

 望んでいなかったにせよ、紛れもなく僕と彼女の赤ちゃんであり、まだ姿形、性別も声も何もわからないにせよ、紛れもなくそれは立派なひとつの命だ。



 体を考えて履いているらしい真依子の低いヒールのパンプスを見おろしながら、僕はそんなことを延々と考えていた。