ーー死人に口なし。
きっと彼女には通用しないのだ。
赤ちゃんが誰もいない場所を見て笑っているのと同じ原理で、瑠海には本当に父親の声が聞こえているのかもしれない。
世間をよく知る大人や、僕みたいにひねくれた人間には到底知り得ない、未知の感覚。
だから瑠海は、喋りに行こうと僕を誘ったのかもしれない。
「お兄もパパと喋ってー!」
「…え、僕はいいよ」
傍観していた僕の無防備な手をポケットから取りだした瑠海は、墓石の前に僕を立たせた。
柄にもなく少し焦った僕が可笑しいのか、瑠海は僕の手を両手で捕まえながらケラケラと声をあげて笑う。
無邪気なそれは、僕の笑顔を誘うようで。
邪心のないそれは、僕の心を溶かすようで。
嗚呼、やはり僕は彼女には勝てない。
どれだけ僕の心がねじれても、瑠海だけはそれを正す力を持っているのだ、きっと。
「お兄ぃ」
「…わかったよ。何て言えばいい?」
促すように僕の腕を揺らす瑠海を見おろして、僕は唇の端だけで薄く笑う。
すると瑠海は、ちらりと父親の墓石を一瞥してからもう一度僕を仰ぎ見た。
