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「瑠海、そんなに走ると転ぶよ」

「転けないもーん!」



 瑠海に頼まれてここを訪れたのは、翌日の爽やかに晴れた昼下がりのことだった。

 堂々と、それでいて端然と並ぶ墓石の間を迷うことなく駆けていく小さな後ろ姿は、突き当たりの墓石の前で足をとめた。

 そして、パーカのポケットに両手を入れて呑気に歩く僕に大きく手招きを見せる。



『パパと喋りに行こー?』



 昼食後の食器洗いをしていた僕に、瑠海は突然そんなことを上目遣いで訴えてきた。

 大人しくアニメのDVDを見ていると思いきや、瑠海は父親と“喋りに行こう”と言ったのだ。



 その言葉の意味を悟るのに、対して時間は掛からなかった。



「パパぁ!これ、瑠海が選んだんだよ!」



 瑠海は僕よりも父親に会いに来ていたからか、手を引かれて立ち寄った花屋で慣れた様子で菊の花を僕に指さして見せた。

 抱えていた菊を祖母の見様見真似か、一生懸命に供える瑠海。

 僕は彼女の傍で立ち止まると、あえて邪魔をしないようその様子を見守った。



「パパ、ありがとうって言ってるね!」



 少し傾いてはいるけれどそれも瑠海の愛情だと、微風に揺れる菊を見つめていれば振り向いた彼女は笑顔で僕を見あげた。

 なんて、純粋なのだと思った。

 瑠海の丸い瞳に映る自分が酷く、穢れて見えた。