恋の狂想曲





「……っ」



突然降って沸いたその話に、あたしはどうしようもなく戸惑っていた。

自然と、唇を噛み締める。


どうして。どうして。
あたし、何もしてないじゃない。


ただ普通に学校に通って、
友達と話して、
いっぱい笑って、
お父さんの手伝いして、
勉強もそれなりに頑張って。


ただただ、幸せに暮らしていただけなのに。

あたし、田原家には何も悪いことしてないじゃない。


どうしてあたしなの―――――?



…本当はわかっている。
あたしが田原家から出た娘の長女だから。


でもね、納得出来ない。
心が受け入れてくれないんだ、この事実を。



―――――――19歳。


一年後にはあの人と婚約して、田原を背負っていかないといけないんだ。


一年間…―――――。


あたしの自由の、タイムリミット。


一年後の夏までには覚悟を決めて、お父さんや今の生活に「サヨナラ」を告げなくてはならない。


今のあたしに、それは出来ないよ――――――――。



「………っ!!」



気づけばあたしの足は自然と動いた。

どこに向かうのかも、考えていないのに。




「千夏っ!」



自分の意思とは裏腹にお父さんの呼び止める声も振り払い、あたしは家を飛び出した。

その間も終始無言だったお婆様が、怪物のようで、怖かった。