カチャリ、カップをソーサーに置く部屋に音が響く。
「…田原の、当主…ですか?」
本当はもっと大声で叫びたかった。
ていうか、叫びたい気分だった。
でもお婆様の前では出来るだけおしとやかにおとなしくしてなければならないと、昔お母さんから教えてもらったから。
あたしはぐっと叫びたいのをこらえた。
「ええ。田原を継いでもらうのよ」
「……は、い?」
大事なことだからもう一度言う。
あたしは昔のことなど、綺麗さっぱり忘れていたのだ。
「千夏さんが19歳…一年後になったら、田原家に入ってこの方と婚約してもらいます」
そう言って見せられたのは、知らない男の人の写真。
――――――何、何が起こっているの。
「この方は今有力な日本企業の息子さんで…」
鼻高々と話すお婆様。
「ち、ちょっと待って」
その話にストップをかける。
だってわからないんだもの、話が。
お婆様の顔を見ると、明らかに不機嫌そうだった。
「あ、あたし…そんな話、聞いてもないし承諾してもない。何で勝手に跡継ぎに…、しかも知らない人と結婚しなきゃいけないの!?」
つい、口調が荒くなってしまった。
しまったと思ったときにはもう遅くて。
お婆様はあたしを刺すような視線で見つめ、
「会長命令です」
ピシャリ、冷たく言い放った。
