「……ん?」
話は一時間前まで進む。
学校から帰ってきてリビングの前を通ったあたしの耳に、何かが流れ込んできたのだ。
そっと、リビングの扉を開けて様子を伺う。
ソファに座っていたのはお父さん。と…、
「お、お婆様…!?」
思わずびっくりして甲高い声を出してしまった。
だってそこにいたのは田原の会長である、お婆様だったから。
そりゃ小さい頃からずっと会ってなかったけど、顔くらいは覚えてるさ。
あたしの声に気付いた二人は、ほぼ同時にあたしへ視線を移動させた。
「あら千夏さん。お帰りなさい。お邪魔しているわ」
「ただいま…。お父さん、何してるの…?ていうか、今なんて言った?」
聞きたいことはとことん聞くあたしの性格。ズバリ聞いたあたしを見て、お父さんは溜め息をついた。
聞き間違いでなければ、今お婆様は確か…。
「千夏。また、跡継ぎの話が来たんだ」
「……………え、跡継ぎ?」
言葉を発するまでに数秒、間が空いた。
跡継ぎ?また来たって、どういうこと?
「千夏さんには次の田原の当主になってもらいます」
お婆様はそう言うと、上品にティーカップに口をつけた。
