最愛であった筈の母を忘れ、自分をこの寺へと追いやった父。 まだ幼かった幸守が、重い病で死の縁に立たされた時ですら、父がこの寺に訪れる事は無かった。 それが、まだ幼かった幸守には哀しかった。 しかしその哀しみも、幸守の成長と共に、憎しみへと姿を変えてしまった。 幸守はゆっくりと息を吐くと、決心したように歩き出した。 「聞いてやる…捨てた息子に今更何の用があるのかを!」 遠ざかる背中を見送るように、桜の枝が淋しげに風に揺れていた。