気付いた時には、さっきの喧騒が嘘みたいに部屋は暗く、静かになっていた。

頭痛ももう引いている。

ニコラスの手には、重たそうな置時計が握られていた。

はあはあと喘ぐニコラスがじっと見ていたものは、横たわって動かない、血まみれの『エヴァ』の死体だった。

ぼんやりとした頭で、ニコラスはついさっきの事を思い出そうとするが、できるわけがなかった。

エヴァは、どうやらさっきの出来事で、椅子から落ちてしまったようだ。

『エヴァ』から流れる血だまりは、どんどん広がっていく。

落ちた場所が悪かったのか、エヴァの真っ白な服に血が滲んでゆく。

じわり、じわりと血が服を染めていく。

どんどん染まっていき、完全に血を吸い取ったその服はまるで、とても綺麗な、

真っ赤な、真っ赤な、真紅のドレスのようだった。

ニコラスが、エヴァのその真っ赤になったドレスを見る。

見つけた。

声は出さなかったが、そう呟いたように見えた。

薄く微笑みながら、ニコラスは床に落ちてたエヴァを抱き上げた。

彼の笑顔には、不思議と大きな幸福感と充実感に満ちていた。

エヴァの頭を撫でながら、歩き出す。


「さあ、もう一度夢を見よう…」


そう語りかけながら、ニコラスとエヴァは寝室へ消えた。