「ニコラス!!」

「っ!」


目が、開いた。

誰かに体を揺すられて、強制的に起こされたようだ。

ニコラスの名前を呼んで起こした張本人は、目の前にいる。

それはなんと、『エヴァ』だった。


「もう、やっと起きた。何昼間っから熟睡してるのよ」


『エヴァ』の声に反応するようにニコラスの頭がまたずきりと痛む。


「もう、せっかく返ってきたのに役所に行ったら仕事を辞めた、ってどういうこと?」

「…」

「何か、嫌なことでもあったの?」

「…誰、だ?」

「ま! 寝ぼけてるのかしら。あなたの恋人のエヴァよ、失礼ね」


呆けた顔のまま、ニコラスは「あぁ」と吐息を吐くように返事をした。


「まったく…。あら、この人形まだ持っててくれたの? 大切そうにしてるじゃない」


自分の作った人形がぞんざいに扱われてないのを知り、嬉しそうになって『エヴァ』はエヴァを抱き上げようとした。


「触るな!!!」


頭に、鈍痛が走る。

突然上げたニコラスの大声にエヴァはびくりと驚いた。


「な…なに?」

「…その手をどけろ」

「なによ? なにかまずかった?」

「エヴァに触るな!!」


怒鳴り声をあげたニコラスの顔は、頭に走る鈍痛のせいで歪んで、恐ろしかった。

静寂が訪れる。『エヴァ』はニコラスの意味が解らないでいた。


「…何よ、怒らないでよ。せっかくあなたに会いに来たのに」

「いいから離れろ」

「どうしちゃったの、ニコラス! たかが人形じゃない!」

「エヴァから離れろ!」

「何を言ってるの!? エヴァは私よ!?」

「彼女もエヴァだ!!」


しん…。部屋一体はまた静かになる。


「…ああ、失礼。言い間違えてしまった。エヴァは君なんかと同じ存在じゃないのにね…」

「っ!」


エヴァの目にはもう涙が溜まって今にも溢れ出しそうだ。

少量の恐怖も感じているようだ。歯がかたかたと震えている。

ニコラスの頭はまだ疼いている。


「…あなた、おかしいわ。おかしいわよ…」

「…」

「どうしちゃったの…? どうしてそんなおかしくなっちゃったの…?」


ずきん。


「そう…全部、これのせいなのね…」

「…エヴァに触るな」


ずきん、ずきん。


『エヴァ』は、エヴァの方へ体を向けた。


「こんなことになるんなら、渡さなきゃよかった…」

「触るなと言っている」


ずきん、ずきん、ずきん。


「こんなものっ…!!」


『エヴァ』は、エヴァをつかみ上げ、大きく振り上げた。


「やめろ!!」


ぷつん。