【短】真紅のドレス

自室のドアを開け、人形を抱きあげる。


「あぁ、エヴァ。ごめんね、寂しかったろう。すまないね、でも俺も会いたかったんだ」


そう言ってニコラスはエヴァと呼ばれた人形の額にキスをする。

続いてうっとりとした眼差しで『エヴァ』を見つめ、彼女の頬を撫でる。


「エヴァ、エヴァ。君はやっぱりいつでも美しいね。愛してるよ…」


もう、ニコラスは人形の瞳の奥にエヴァを探してはいなかった。

今や、『エヴァ』の存在の方がエヴァより彼の脳内を占領していた。

『エヴァ』はもう、『エヴァ』ではなくなった。

ニコラスはあの我が儘な『エヴァ』のことなどほとんど忘れ、エヴァの方を愛するようになっていた。