「何も見ていないなら、結構です。

 頭など下げなくてもいいですよ」



ゆっくり顔を上げると

さっきとは変わって優しいだけの笑顔



一瞬、さっきの怖い笑顔が

嘘みたいに思えてくる



「私は、自分の部屋を見られることが

 あまり好きではないので・・・

 勝手に見ないようにしてください」



それだけ言うと当主は

方向転換して歩き出した



「あ、あの・・・!

 じいちゃ・・・んじゃなくて、

 棟梁のいる場所まで案内、とか

 してもらえませんかね?」



「仕方ないですね・・・。

 では、ついてきてください」



淡い紫の着物が揺れる

長い黒髪は俺を誘惑するように

綺麗になびいた



綺麗な人だなぁ・・・

ってだめか、じいちゃんが言ってた