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小学5年生の夏休み。
美波家は毎年恒例の家族旅行に、静かな山の奥のホテルへ行くことになっていた。
「お母さん、早く乗ってー!!」
こぢんまりとした一軒家の前に、白いワゴンが停められている。
前日の夜から興奮してなかなか寝付けず
にいた美波は、車の後部座席の窓から身を乗り出して母親に手招きをしていた。
「はいはい、今行くからね」
そう言ってにこりと微笑む母。
「おいおい、あまりはしゃぐなよ。むこうに着くまで長いんだから、疲れちゃうぞ」
運転席に乗っているのは、一音一音はっきり発音していて日本語の上手なイタリア人親日家の父。
後ろを振り向くと、大きくがっしりとした手で美波の頭をがしがしと乱暴ながらも愛をこめてなでた。
