ごき、と鈍い音がした。
「痛!分かったら、分かったから離せ」
涙声で懇願するので、言われた通り手を離した。
「バチ当たりな…」
「で、俺はどうして幽霊が見えるようになったんだ?」
狐はふぅ、とため息をついた。
「いや、それが…私がお前に触れてしまったからなのじゃ」
「?」
「助けようと思ったならば、その体を包まねばならん。その時私は形の無いものに変化した。ただちょぉっとはずみで顔に…」
「触れてしまったのか?」
うむ、と頷いた。
「霊に触れられると、人は霊が見えるようになる。普段は決してそんなことは起こらないが、たまに下等な霊がうっかりと触れてしまうのだ」
「つまりお前は下等な霊なのか」
「断じて違う!あれはたまたま。たまたまじゃ」
首を激しく左右にふって否定するが、どうも怪しい。
「そんな疑いの眼差しを向けるでない。私はこの山の神じゃぞ」
