いつからだろうか。
私の心にはいつも君がいた。
遠くから見ていた君が、ふと目の前に現れたとき。
その瞬間からずっと君に夢中だったのかもしれない。
どうしてだろう。
あの頃の淡い記憶は
今でもずっと優しく心に残っている。
丘の上のあの景色と共に。



そこは海に面した田舎の町。
太陽が熱く照りつけ、日差しが眩しい。
潮風に吹かれた木草が揺れ、緑が広がる。
カモメの鳴き声が海に響く夏。
薫は半袖のセーラー服を着て、家を飛び出した。
「行ってきまーす!」
照りつける日差しの中、薫は坂を登っていく。
セーラー服のリボンが揺れ、髪が風になびく。
坂を登りきったところの角を曲がり、一本道をまっすぐ行く。
その道には同じ制服を着た学生達で賑わっていた。
「おっはよー!薫!」
一人の少女が後ろから顔を出した。
「ビックリしたぁ!小百合かぁ」
その少女の名は小百合。
薫の唯一の親友。
そこまで人付き合いが上手くない薫とは正反対に、目立ちたがりで元気な小百合はみんなと友達。
そんな彼女といることが薫にとって刺激だった。
「今日から学校って…嫌だけど楽しみ!」
小百合は笑顔で薫の先を歩く。
今日は夏休み明け最初の登校日だった。
「ねぇ、薫!転校生来るかな?」
そう興味津々で聞く小百合。
「うーん…来たらいいね」
「いい男でありますように!」
「また、小百合はそういうことばっかり」
そう言って二人は声を揃えて笑った。

賑わう教室。
夏休み明けということもあり、会話で盛り上がっている。
熱苦しい教室に、窓から吹き抜ける潮風が気持ちよく感じる。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムと共に、全員が席に座る。
「転校生、来るらしいよ」
薫の前の席に座る小百合が、振り替えってささやいた。
そこまで楽しみにはしてなかった薫だが、そこまでみんなが騒ぐと興味も沸く。
ガラガラ。
教室のドアが開いた。
入ってきたのは担任の先生だけ。
「えー、転校生かと思ったら先生かよー!」
クラスの男子の発言に笑が起こった。
「小百合、転校生こないよー」
「来るって言ってたのにー」
薫はわざと小百合に言って、テンションを下げた。
先生が話し出した。
「よし、みんな久しぶりだな!まぁ、みんなが待ってる転校生だが…」
「転校生だが???」
クラスの男子が続いた。
「えー、一人来ています」
『イエーイ!!』
クラスのみんなが騒いだ。
小百合は薫の方を振り返りニヤッと笑った。
「えー、静かに!紹介します。とうぞ入って」
そう先生に導かれ、入ってきたのは誰もが好きになりそうなカッコいい青年だった。
「じゃあ、自己紹介からお願いします」
「あ、はい。東京から来ました、佐久間 康平 といいます。趣味はギターを弾くことです。今日からよろしくお願いします。」
康平は堂々と自己紹介を終えた。
薫は何故か康平に見いっていた。
そんな薫に康平は気付き、二人は目が合う。
驚いた薫は視線を窓の外へ反らした。
先生に席を指示され、康平は教室を歩いた。
「これからよろしくな」
「あぁ、よろしく」
男子みんなが話す言葉に、丁寧に返事をしていく。
そんな姿に女子は惚れ惚れしていた。
「薫!薫!」
小百合に呼ばれているのに薫はボーッとして気づいていなかった。
「え、あ、ん?」
「席、あんたの隣じゃん!いいなぁ」
薫はそこで気付いた。
康平の席は薫の隣。
もう遅かった。
康平は薫の前にたっていた。
「隣、今日からよろしく」
そう微笑んだ姿に少し照れ臭くて、一言でしか答えられなかった。
「あ、う、うん。よろしく」