3月10日の昼過ぎの校内に、生徒が残っている気配はない…

わずかな教師を残し、三年生は打ち上げへと街にくり出した後だった。

春とはいえまだ肌寒いが、良く晴れた風のない日だった…



鳴海は卒業証書を持って、一人屋上に出た。

フワッと、日差しに体を包まれる…

「…静かだな…」

呟きながら、気の向くままに屋上を歩いてみる…

ここからの眺めを目に焼き付けてから、行こうと考えていた…

手すりにもたれかかると、辺り一面に広がる田んぼを見渡した。



どれぐらいそうしていたのか…何となく背中に気配を感じてふり向くと、そこに女の子が立っていた。

「…やあ、さえちゃん」

目を細めて鳴海は、さえに笑いかけた。

「お兄ちゃん、もう会えないの?」

「うん…今日で学校卒業したんだ…式見てたでしょ?」

「うん…」

少しうつむいて、さえは答える…

「寂しくなるね…」

鳴海は彼女の頭の辺りに手をのせた。もちろん、触れる訳じゃないけれど…