「静時君、がんばれって…」

「そう言えば初めてだ…そう言われたの…」

「お許しが出たって所ねぇー」

「…ちょっと感動してても、いいかな?」

「どーぞ、好きなだけ」



日がだいぶ落ちて、夕焼けに変わっていた。

鳴海が教室へ戻ると、千歳がさっきの小説を読んでいた。

「何だった?」

「…ちゃんと歯を磨くように、だって」

「…もうちょっとマシなウソは、ないのかな?」

「じゃあ、帰ったら手を洗いましょうとかは?」

「分かった分かった、そーゆー事にしといてあげるわ」

千歳は小説をしまうと、立ち上がった。

「…兄がね、来てたんだ…で、お茶してきた」

「へー」

ちょっとびっくりして、千歳は鳴海を見た。

「保健医と兄が、知り合いなんだよ…」

「へー」

「役者やってるんだ…」

いつになく、鳴海が自分の話をしている…

千歳は感心して、鳴海を見た。

「帰ろっか?」

「え?…あ、うん、帰る帰る」

あわてて千歳は、鳴海の後に続いた。

すみれ色に空が染まって、校舎をふり返ると同じ色をしていた…