人けの少なくなった校内に、チャイムの音が鳴り響く…

屋上へと続く階段を上がると、予備用に積まれた古い机とイスが並んでおり、つきあたりの壁には小さな窓が上の方についていて、淡い春の西日が差し込んでいた。

「…お兄ちゃん、何してるの?」

突然女の子に声をかけられ、机に座って目を閉じていた鳴海静時は、声のする方を見た。

7・8歳ぐらいの少女がいつの間に来たのか…鳴海の隣に、ちょこんと座っている…

鳴海は、その子を見て驚く訳でもなく静かに答えた。

「出れたらいいなぁーって思ってたの」

そう言って目線を扉の方へ向けた。

「でられないの?」

「うん」

「さえは、でれるよ」

″さえ″と名乗ったその子は、ぴょんと机から降りて扉に手を伸ばすと、そのまま扉の向こうへ消えてしまった。