「おはようございます。ディーマス様」
翌朝。貧民街の自分の家の真ん前で。俺は硬直していた。
腰ほどまである長い髪をサイドテールにし、割としっかりした旅装束を身に纏い、笑顔で立っているのは……
「リ、リーリアっ!?」
「はい。今日ご出立でしたね」
「ストーカーか。お前は。
どうやってここを知った?」
「スウォードに聞きました」
ああ、あの眼鏡、そういえば俺の職業やら住まいやら訊いて来たな。何度名前を言わされたことか。
……じゃなくて!
「個人情報の保護とか……知ってるか?」
言うだけ無駄なのは知っていたが。
案の定、彼女は分かっていなさそうな顔をしている。
と、ここまで来て俺は幾分冷静になったのか、彼女の背中にあるものに気づく。
「それ……弓か?」
彼女の髪のような銀色の長弓だった。何を考えているのか、端にリボンが結んである。……ん?
弦が無い。一瞬遅れてそれに気づいた。
弦の無い弓。そんなものを持ち歩くのは、二種類の人間しかいない。
ひとつは、ただの馬鹿。そしてもうひとつは――
「あんた……魔弓士か?」
「ええ、一応。ナイフも少々使えますよ」
魔弓士――魔剣士とかならよくいるが、これは珍しい。
「……で? まさか、俺の傭兵の仕事に付いて来ようなんて考えてねぇよな?」
「そのまさかです」
「……あんたなぁ……」
俺は嘆息し、
「旅したことあんのか? 野宿だぞ? 夜の見張りとか、徹夜とかもあるぞ? 食事も水浴びも……分かってんのか?」
「あら」
彼女は、少々自慢げに、
「これでも、十一の頃まではお母様と旅をしていたんですよ」
彼女曰く。十一までは各地を母親と二人で渡り歩いていたらしい。
ところが、ある日母親が死んだ。
そして、それを聞きつけた皇帝が彼女を迎えに行き帝宮に住まわせたらしい。
驚いたのは、皇帝自らが彼女を迎えに行ったってとこだな。使いを寄越せばいいのに。……それほどまでに溺愛してるってことか?
……ん? 待てよ。
「ンなもん、ますます連れて歩けるか! 怪我でもさせたら首が飛ぶ!」
「お父様は説得致しました」
凛とした声で言う彼女。と、表情をにこやかにし、
「さ、傭兵さんたちの集まる場所に行きましょう」
言い、俺の手を引っ張って歩き始める。
ちょっと待てぇッ! こんなん、仲間に見せられるかぁっ!
慌てて振りほどくが、その一瞬で殺気が増す。俺は辺りを見渡し、
「……分かった。でも、連れて行くかはあんたの実力と仲間の判断次第だからな」
言って、一緒に歩き出す。
……いくらなんでも、正規兵二十人を相手にするのは面倒だからな。彼女はこのストーカーたちに気づいているのかいないのか。
俺は、溜息混じりに彼女を仲間の集まる酒場兼食堂に連れて行った。……そう、昨日彼女に会った場所だ。
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