「……で、あんたは何を考えてる?」
帝宮の正門前で。俺は彼女に言った。
彼女――そう。少々金持ちと思わせる程度の服に身を包んだ、リーリアント皇女殿下に。
「ですから、お送りするついでに貴方のお屋敷にお邪魔しようと……」
「できるかぁっ!」
さらりと言うリーリアの後ろには、皇室の紋章こそないが立派な馬車。
「お前な! 俺は貧民街に住んでんだぞ!? そこにこんなもんで乗り込んでみろ!」
俺が言うと、リーリアは少し考え、
「少々お待ち下さいね」
言い、馬車に入り、鞄やらを持って出てくる。背中には大きな包み。
「では、これで歩いて参りましょう」
「……あんた……意地でも俺についてくるつもりか」
「はい。勿論です」
「あんたと付き合うつもりはない」
俺がきっぱり言うと彼女は首を傾げ、
「え? でも、恋人さんとは二年前にお別れになったのでしょう?」
……はあ。俺は溜息をついた。
「確かにそうだ。でも、だからってあんたと付き合う理由にはならねぇだろ?」
可愛いことは認める。これが傭兵仲間で気が合えば、確かにそういうことも考えるかもしれない。
しかし。これは皇女様だ。世間知らずの。
こんなのの世話を焼くほど俺はお人好しじゃない。
「でも、私は貴方をお慕いしております」
「……俺の意思は?」
「ですから、お供して、貴方の御意思を変えて差し上げようと……」
「要らん。ドルメットの奴と仲良くしろ」
言い、俺は一人で門の外へ歩き始める。
「ついでに言っとくと、俺は傭兵の仕事で明日の午後にこの街を出る。
……じゃあな。皇女様」
彼女は何か言っていたが追いかけては来なかった。
何を言っていたのか知らないのは、分からなかったんじゃなくて聞かなかったからなんだが。
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