LeliantⅢ


「だから、リルベルド・ディーマス! 何度言わせるんだよ!?」

 取調室だった。石で造られた壁が四方を囲み、窓の無い狭い部屋。
 入り口に兵士。隅に記録係。そして、机を挟んで向かい側に若い男。

 悔しいが、美形だ。短めの金髪に装飾よりも機能を追及したデザインの眼鏡。緑の瞳で冷ややかにこちらを見ている。

「……で! 何で俺が取り調べられなきゃならねーんだよ?
 さっきも言ったけどな、俺は絡まれてたあの娘(こ)を助けただけだって!」

 そもそも、何で取り調べの場所が帝宮なんだ? これじゃ、まるで重犯罪者じゃねぇか。普通、兵士の詰め所か何かだろ?

「……一方的に、叩き伏せた。
 そう聞いたぞ」

 冷ややかに言ってくる、眼鏡の男。
 ……う、それは……

「……腕に覚えでもあるのか?」
「しがない傭兵だよ」
 なげやりに答える。

 俺は三十前と若く経験は浅い方だが、それでも腕は立つ。……自慢だけどな。
 傭兵仲間じゃ結構有名なんだぜ?

 ……そういえばこの眼鏡。なんかご立派な服装してやがるな。胸についてるのは勲章か? ……まあ、それ以上に態度がでかいが。

「なんだったら、あの娘に訊いてくれよ!
 えっと確か……リーリアってコだ!」

 ひくり。眼鏡が顔を引きつらせた。
「貴様……今、何と言った?」
 言いながら立って、抜剣する。

 ちょ、ちょっと待て! 俺はここに入る前に武器を取り上げられて――要するに、丸腰だぞ!

「……リーリア? しかも呼び捨て?
 身の程というものを教えてやろう」
 机を回り込んで近づいてくる。俺は、せめて避けようと身構える。……狭いけどな。

 と、その時。

「スウォード!」
 扉が開いて可愛い子がひとり、入ってきた。……助かった。

 腰まである銀髪に青い瞳。年のころは十八前後。今は立派なドレスを着ている。

 ……さっき酒場で助けた、リーリアだ。

「何をしているのです?」
「申し訳ありません。リーリアント様」

 言うなり、スウォードと呼ばれた男は剣を収めて跪く。……このコ、そんなに偉いのか?
 ……ん? スウォード? ……まさか……

「スウォード・ドルメット!?」
 俺は大声を上げていた。

 知ってるどころじゃない。有名人だ。
 大貴族ドルメット家の跡取り息子。それだけならまだしも、武術に優れ、智謀に長け、若干二十四歳で将軍にまで登りつめた実力派だ。

「……何だ? その言い方は」
「……あ……いえ、失礼しました。ドルメット将軍」
 悔しいが、一応言っておく。……こうでもしないと本当に首が飛ぶ。

 ……待てよ? 何でドルメットの奴が、このコに傅いてるんだ?

「……あの……リーリア……あんたは……」
「貴様! この無礼者が!!」
「お止めなさい! スウォード!」

 また剣を抜いたドルメットを彼女が制する。
 そして俺の前に来ると、
「ごめんなさい。ちゃんと自己紹介していませんでした。
 私は、リーリアント。
 リーリアント・ジュレア・メルフィースです。よろしくお願いしますね」
 笑顔で言う。

 俺の思考は、一瞬止まった。
 メルフィース。それは、この国の名前。

 ……ってことはまさか!

「あの……もしかして……皇女様?」
 恐る恐る、訊いてみる。

 いやでも、リーリアントなんて皇族、聞いたことねーぞ。皇族の名前は全部公開されてる。
 ……覚えてない奴や知る余裕がない奴もいるけどな。貧民街の連中みたいに。

「確かにお父様の娘ですけど……母親が違うので」
 お父様。それは多分、皇帝のことだろう。母親が違うってことは……

「えと……隠し子?」
「そういうことです」
 屈託のない笑顔で答える彼女。と、
「跪け。この無礼者が」

 ……あの……後ろから首筋に剣を突きつけるのは止めて欲しいんですが。

「止しなさい。スウォード」
 彼女の一言で、また剣を納めるドルメット。……権威に弱い奴。将軍なら当然か。

「それより、スウォード。お父様とお話しして参りました」
 毅然と言い放つ彼女。只事じゃない口調だ。
「あなたとの婚約、解消です」

「……は?」
 ぶっ! 俺は吹き出しそうになった。
 だって、今まで威張りくさってたドルメットの奴が、あんな間抜け面を!

 でも次の瞬間、俺はもっと驚いた。

「私、この方に致します」
 言いながら、彼女は俺の手を取ったのだ。

 ち、ちょっと待てぇええっッ!

 そう叫ぶことも、許されなかった。


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