「嘘を言うなッ!!」

 セザーニが怒鳴る。
 洞窟の真ん前。奴はそこで、俺たちが出てくるのを待ってやがったってわけだ。

「お前らがいきなり出てきたのは見たぞ! 見つけたのだろう!?
 封夢の玉を!!」

「だから、それを守る蒼穹の一族に勝てなかったって何遍言わせるんだよ?」

「だったら、どうしてお前らは無事なんだ!?」

 と、そこまで言ってセザーニの奴は、俺たちの様相に目をやった。そして、
「……そうか。玉を使ったな?」
 意地悪く言う。
「玉を使って、生き延びたのだろう? 瀕死の重傷から」

 レンは言うまでも無く、俺たちはリーリアを除いて、酷い有様だ。それが、五体満足で立っている。
 ……そういう結論に達したか。

 ざっ! 兵士が俺たちを取り囲む。

「玉を持っている筈……いや、持っていなくてもどこかに隠した筈だ!
 捕らえて奪え! 吐かせろ!」

 俺たちが臨戦態勢を取ると、

「いいのかなぁ?」
 嫌な笑い。
「このセザーニ伯爵の指名手配犯になっても?」

 ……この外道が。

 この状況を打開する道は二つ。

 ひとつ。セザーニもろとも全て葬る。
 ひとつ。俺が懐の中のものを使う。

 前者を選べば、俺たちは間違いなくお尋ね者だ。でも、後者を選ぶとリーリアは……。

 ……………………

 ……許せ。リーリア。

 俺は、懐に手を入れた。その時。

「いい加減になさい! セザーニ!」

 威厳ある声で言ったのは、リーリアだった。一歩前に進み出ると、

「兵を退きなさい!」

「小娘が何を偉そうに!」

「黙りなさい!」

 リーリアは、弓の端に結わえたリボンを解いた。そこにあったのは――

「この私、リーリアント・ジュレア・メルフィースの言葉が聞けぬと言うのですか!?」

 弓に彫り込まれていたのは、皇室の紋章。たじろぐセザーニ。

「……め、メルフィース……? ま。ば、……」

「我が名の下に命じさせていただきます。今すぐ兵を退きなさい」

「ええい! 小娘の戯言に惑わされるな!」
 兵士を叱咤するセザーニ。今度は俺が前に出た。

 懐から取り出した、銀のレリーフを見せながら。
 名前も知らない皇女様は無視できても、これは無視できねーだろ。

 皇室の紋章の上に、盾の意匠。皇室専属警備のフォールッティング・ナイツの証だ。ついでに俺の名前が彫り込まれている。

「これが偽物か本物か、分かるな?
 んで? フォールッティング・ナイツが守るのは何方様か、それも分かるな?
 この方がどんなお方か、分かるな?」

 蒼白な顔で、セザーニたちは去って行った。



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