「また、ここにいた」

 空から降るようにして投げかけられた幼馴染の言葉に郁は思わずムッとする。


 郁がこの鰐見台に良くいることは周知の事実だが、夜中に荒れ狂う海に行った昔話までセットにして彼女をバカにするので『また、いた』と言われるのが嫌なのだ。


「何?」

 幼馴染の雅史(まさし)を振り払うように勢いよく郁は立ち上がった。

「何って……今日、伯父さんの葬式だろ。

 おばさん達、お前のこと探していたぞ?」

「知っている」

「あ、て言ってもちゃんと制服に着替えているじゃん。珍しい」

 雅史に背を向けるようにして鰐見台の手すりによりかかる郁は海から吹き上げる風にさらされる格好になる。

 やや長めの制服のすそはバタバタと風にたなびく。

「うるさい」