「大丈夫。必ず満月の夜、再び君を迎えに来るから」

 この夢を見て起きる朝はわき腹の傷がずきずきと痛む。
 
 古傷が痛むと言えば聞こえが良いが、その痛みにハッと夢だったと気付かされるこの感覚はあまり気分が良いものではない。

 郁は少年と会った日…。

 会ったと思われる日、荒れ狂う海にいた。
 
 少年に連れられて行っているつもりだったが、本人以外誰も問題の少年を見ていないという。

 だから周囲の大人たちは

「海に勝手に遊びに行った言い訳」

 としか少年の存在を認識しなかった。


 幼稚園に通う少女の証言だ。

 当然ともいえよう。

 だが

「迎えに来る」

 という言葉は、その頃の記憶の中では一番鮮明に耳の奥に残っていた。

 その少年が自分を探していたら……と思うとこの鰐見台に足を運ばざるおえなかった。