「だって!!郁ちゃんが!」

 そう抗議するミカに小さくため息をつく。この二人のやりとりは今日が初めてではない。

「調理師免許をお前が取るからだろ」

 郁がミカの本名を知ったのはカウンターの奥に貼ってある調理師免許の名前を見て知ったのだ。

 事情を知らなければマスターとミカさん。

 で済むのだろうが、マスターの名前を知ると『源三』は誰の名前なのか?

 となるのが自然な流れだ。

「なんで双子なのに源三と陽一なんて名前にしたんだろうね」

 軽快に階段を下り陽一と呼ぶ男に郁は質問する。

「爺さんがどっちか一人は名前を付けたいって聞かなかったんだ」

「貧乏クジひいちゃったね」

「そう思うなら、呼ばないでちょうだい!」

 そう言いつつも二人は郁の来店をどこかで楽しみにしていたし、歓迎もしていた。郁も圭一を知らない人達に囲まれて過ごす時間はどんな喫茶店よりも楽しいひと時だった。