「ちょっとー。うるさいんですけど?」

 おそらくバイクが止まる音で郁の来訪を知っていたのだろう。
  
 ダイナーからひょっこりと女性が現れる。

 気だるそうにストールを羽織ったワンピース姿の彼女は普段よりも数倍色気があり、事情を知らない人が見れば思わず足を止めるだろう。

 そんな彼女が本気で怒っていないということは郁も十分理解していた。

 屋上の柵の隙間から悪びれた様子もなく顔を出すとニッコリと満面の笑顔を浮かべた。

「あ、源三さん。ごめん」

「ちょっと!!ミカって呼んでって言ってるでしょ??!」

 叫ぶようにしてそう言った彼女の声は地声の男らしい声に戻っていた。

「おい。お前がうるさいぞ」

 ミカをなだめるようにして出てきたのは、彼女に顔立ちが良く似たスラリとした男だった。