バイクにまたがり、エンジンをかければどこへでも行けるような気がしていた。

 実際、それまで乗っていた自転車ではトンネルの先にある隣町には行けなかった。

 行くならば多くて30分に一本電車を使うか一時間に一本のバスを使うしかない。

 もし、それ以外の方法で町を出るならば

『圭一兄さんのように』

 しなければならない。

 そんな物理的な限界が自分の人生の限界であるかのような気がしていた。

 だがバイクがあれば違う。

 18歳になるのを待たずして自分で好きな場所に好きな時に行ける。

 自分の可能性が無限に広がるような気にさせられた。

 それが何よりの優越感だった。

 みんなと同じ制服を着て、同じ県内の大学に通う……そんな平凡な人生ではない別の人生が用意されたかのような気がしていた。