一番、気に入っていたのは圭一がバイクに乗らないことだった。

 バイクが好きでもなければわざわざ免許を取得しないのが普通であり、船舶の資格を持っている圭一だがバイクは普通自動車に付いてくる原付の免許までしか持っていなかった。

 雅史ほどではないが親や親戚は郁の顔を見る度に

『圭一兄さんみたいになりなさい』

 と言う。

 確かに圭一は大阪大学に合格し、就職も大阪でした。
 
 だが仕事のノウハウを学ぶとヒョッコリと故郷に帰ってきてダイビングショップを開いた。
 
 しかも黒字が続いている。

 大阪や東京に進学する人間は多いが地元に戻り、しっかりと働いている人間は少ない。

 戻ってきても『失敗して戻ってくる』人間が多いのだ。

 それだけに圭一は海野家にとって自慢の息子だった。

『圭一兄さんみたいになりなさい』

『圭一兄さんなら……』

 それは呪詛のように郁を苦しめた。