「満月の夜、君を迎えに来るよ」

 そういった少年の顔は郁は見たことがなかった。
 
 田舎に住む彼女にとって同年代の少年少女は親戚レベルの付き合いがあり『知らない子』というのは存在しえないはずだった。

 だが月明かりの下でフワフワとした髪がキラキラ光る少年を彼女は知らなかった。

「迎えに?」

「君が居ないと僕らの世界は壊れてしまうんだ」

「私が?」

 自分が居ないと誰かが困ることがなかっただけに彼の言葉は魅力的だった。

 だが彼女の手をキュッと握る小さな手の冷たさに彼の真剣さが伝わり、微かな恐怖も覚えた。

「もう行かなきゃ」

「え?どこに?」

 
 まだ一人では何処にでも出かけたことがない少女にとって一人で何処かに行く決断をできる彼が大人に見えた。

「大丈夫。必ず満月の夜、再び君を迎えに来るから」