「なんじゃ、何だかんだ言って儂の嫁になるつもりかの」
「ちっ違うし!!!ありえないし!!!ただ興味があっただけで…」
ずいっと近くに寄られ、あたしは尻すぼみに言い、まさかまさかとあたふたと手を振る。
「ほう?」
「きょ、興味っつってもほんの、すこしだけっ」
無言でさらに近づいてくる京次から逃れれるように、あたしは顔を逸らす。
「ほう」
「え、ちょちょ近い近い!顔近い近い近い!」
思ったより声が大きくて違和感を思えたあたしが顔を上げると、鼻と鼻がぶつかるんじゃないのかっていうほど、京次の顔が近くにあった。
驚きすぎて声が出なかった。
急に顔が熱を持ち、逃げ場を求めるように視線を動かす。
「なんのことだったかの?」
あろうことか、京次はこの状況のままあたしに話せと言う。
そんな無茶な。
「なんで人間(あたし)と家族になるわけ?」
あたしは京次を突き飛ばして、少し後退してから言う。
「透鬼には女が産まれんのだ」
…あれ、なんかこれ聞いたことあるような気がする。
マジかよ。
「いや、盛ったの……ここ1500年くらい女が生まれんでの」
「いや、盛り過ぎだろ!!!」
顎に手を置く京次にあたしは吠えた。
「ためしに人間に我らの子を孕ませると、女が簡単に生まれての」
「……そんなことあんのか」
どうやら、人間(こちら)の常識と鬼(あちら)の常識は全くの別物らしい。
「じゃぁさ、なんで妾とかあるわけ?」
子孫繁栄かもしれないが、それにしては女の数が多すぎるような気がする。
「日頃の鬱憤晴らしじゃ」
葉月の言った通り、彼にとってあの人達はただの遊び道具だった。
「……最低…」
「なんじゃ、儂が他の女と寝ることがそんなに不満かの?」
ドン引きしたのに、彼はなんでこうもプラス思考なんだろう。
「ちっげーし!」
別にそういう意味で言ったわけじゃないけど。
なんでか分からないけど、なんとなく、厭だった。
「安心せい、他の女とは縁を絶ってある。今日が最期じゃ」
「………」
そんなあたしの心情を知ってか否か、京次はそう言い、満足したようにあたしの部屋から出て行った。
「………」
……あの、あたしが京次に惚れたみたいな言い方やめてよ。
誰もいない、少し暗くなったこの部屋で、思った。


