「……儂が見えるか、蓮華」
短い沈黙の後、京次が言った。
それも、彼の瞳には少しだけ、悲しさが渦巻いていた。
「見える」
「ちゃんと、見えているか」
何を言っているのだろう、この人は。
輪郭もちゃんとハッキリしていて、そんなに目が悪くないあたしにはしっかりと映っている。
「…ちゃんと、見える」
ため息交じりにそう言うと、彼は安心したようにそうか、とだけ言い、不意にあたしを抱きしめる。
本当に、突然何をするのかと思い突き飛ばそうとしたが、思ったより温かくて、その温もりを手放したくなくて、そっと、あたしは京次の背中に手をまわした。
「断言する」
優しい言葉で、京次は言う。
「お前は儂に惚れる」
この温もりをぶち壊すほどの爆弾を、投下した。
……聞こえない。
あたしは何も聞いてない。
さっきの言葉はきっと空耳だ。
「儂は透鬼(トウキ)。見ようとせぬ者には映らぬ鬼」
……き、きっと聞き間違いだ。
きっと京次はどこかで頭をぶつけたんだ。
じゃないとこんな電波なんこと言わないって。
鬼って。


