「物理なんですけど…
先生って確か歴史担当でしたよね?
基本なんで…文系の先生でも
わかると思うんですが…
バネがもつエネルギーは
f-xグラフから
1/2kx^2 と求めることが
できるんですが、浮力についても
同様に求めることができるのかと…
物体とともに水を一緒に考えると,
両者に対して
力学的エネルギー保存が
成立するのですが…これは,
たとえば定滑車に下げられた
2つのおもりが糸を介して力を
及ぼしあうときに両者に対して
それが成立するのと同様で…」
途中から先生の目が泳ぎ、
理解不能、という顔をしたのを
見逃さなかった。
…と、いうか
明らかだった。
「わ、わかったから…!
もう、2人とも部屋に戻れ…!な?」
勝った、と思ったが
金魚みたいな先生の顔が
面白かったので
あたしは続けた。
「……本当にわかりました?
液体の密度ρ,
沈んでいる物体の体積Vとすると,
結果的にρVの質量が高さhに
あがったことになり、
その位置エネルギーは……」
「…U = ρVgh、ですよね?及川さん」
「そう、そしてーーー…」
「及川!北山も…もう、いいから…
そのへんにしとけ…」
「…そうですか?
じゃあ続きは明日にします。
部屋移動して、すいません。
お休みなさい、先生」
「い、いや…勉強、がんばれよ、お休み」
あたしと和哉は目を合わせて
ニヤリとした。
…文系の先生には
わからないでしょ。

