「ソレデハスキナキョクヲヒイテクダサイ」
「好きな曲?ですか………」
「Yes」
好きな曲………
そう言えば好きな曲なんて考えたこともなかった
いつも指示された曲だけを弾いて言われるがままに弾いていた
悩みに悩んだ末、高度なストラビンスキーのペトリューシュカを選んだ
指の動きが早く、和音が綺麗に揃って作り上げた曲そのため、一つのミスタッチでも命取りになる
ペトリューシュカ
三大バレエ音楽の一つで、おがくずの体を持つわら人形のこいの物語。正真正銘の人間ではないにもかかわらず真の情熱を感じており、そのために人間に憧れている。人形の体の中に閉じ込められた苦しみの感情を伝えている。
第一小節、
第二小節
第三………
ここまでは順調だ
最後まで
どうか最後まで………
そして
最後の一音………………
ペタルを挙げるのと同時にゆっくりと空気に溶け込んでいった………………
完璧な演奏だったに違いない

