俺はコンクールにでる直前まで練習はしていなかった。ていうかしたくなかっただけ
なぜなら?
面倒だから
そこでなにも知らない素人さんたちの演奏が始まる
聴いただけで気持ち悪くなりそうだった。俺の出番が近ずいてきた。緊張したと言いたいところだがしなかった。まったく緊張感がなかったのか「緊張」という感覚を覚えてなかっただけなのかはわからない。
そんな出番を待っている時に俺は自分の耳を疑った。素晴らしい音がホール中に響き渡っている。
曲は
English Country
極めて難しい曲だ。素人からするとただ無造作に鍵盤を全身全霊で叩いているようにしか見えないが、スピードと正確さが問われる。その上作曲者のフィニスィーの手の動きに合わせて作曲されているために、音場判定がしやすいピアノ曲でもある。ピアニストもイマイチ弾けるかどうか微妙な難曲だと言うのに弾いていた女は清々しい顔で弾いていた。
だらけていた訳じゃない。指に力が込められている。一つ一つの音がはっきりしている。ピアノ曲だというのに肘や手のひらをつかうという決して美しいとは言えない弾き方だが彼女がやっているとなんだかこうゆう弾き方もありかもしれない思ってしまう。
その女は当時の俺と同い年だと言うことをあとから知った。ついさっきまで勝つ自信満々だった自分が情けなくなる。こいつだけには負けてしまうのかもしれない。それでもいい。俺はそいつと一緒にピアノを弾いて見たい。
end

