“景くんを傷つけたいの?”



反復される言葉に、俺は苛ついていた。



んなわけねーだろ、あの女。

マジ、ムカつく。



「律樹?すごい怖い顔してるけど…?」
「え?」


隣から聞こえてきた景の声に、我に返った。


そっか。
今下校途中だった。


奈美恵の奴はついて来なかった。

帰り際、明日ね、と意味ありげに笑いかけては来たが……。



「はぁ………」
「どうしたの?なんかあった?」


心配そうに見上げてくる景の頭を軽く撫でた。



「何でもない。」



数秒の間不服そうに俺を見てから、そっかと一人心地に頷いた。



「律樹、あのさ…」
「ん?」
「僕じゃ力になれる事なんて、そうそうないかもしれないけど……何でも言ってよ。嬉しいことも楽しいこともだけど、苦しいことも悲しいことも一緒に感じたいから。」



前を向いたまま、はっきりと景は言った。


俺は真っ赤になっている横顔を見つめ、口元を緩めた。



「好きだよ、景」


それは何も考えずに自然と口から出てきた言葉。



「い、いきなり何…?」
「思ったこと言っただけだ。」


嬉しいことも

楽しいことも

苦しいことも

悲しいことも………か。



でも俺は………

やっぱり景には笑っていて欲しいと思うから。


苦しいことや悲しいことは俺が全部引き受けるさ。