コツ―――
と、後頭部に何かが当てられた。
痛みは感じない小さな衝撃。
だけど、心臓を氷の刃で貫く程の威力はあった。
果然、心臓は不良達のサンドバックになっている時よりもずっと不自然に、それこそ握りつぶされたみたいに唸り騒いだ。
「少し目を放した隙に………なんてザマだ。なんて傷だ。なんてヤツだ。」
感情を押し殺した声はまるで呪詛のよう。
「すみま、せん」
絞まった喉でようようそれだけ言えば、後ろの殺意が更に色を濃くした。
「君を今すぐ殺してやりたいよ。八つ裂きにしてトイレにでも流してしまえたらいいのに。私はなんて不幸せなんだろうね。この世で一番憎い相手を殺す事が出来ないなんてさ。」
スミマセン、と声にならず口が震えただけだった。
悪意ダケで人が殺せるのならば、とっくにこの人の言通りになっているだろう。
条理がそうさせないと分かっていても、後ろの悪意はそれを可能と思わせる程に黒く、濃く、重い。

