(二)



罅が奔る壁に囲まれた薄暗い階段の踊り場。


酒場など人のいるトコロにはいる廃墟一歩手前の雑居ビルも、そこは異世界でもあるかの如くに静まり返っていた。


非常階段へ通じる扉が不意に軋音を上げて



「ちわ。」


一人の男が姿を現した。


ツナギに帽子。


肩にはバックを掛け手にはモップを突っ込んだバケツを持っている。


掃除屋だ。


目深に被った帽子の奥には鋭い双眸。


なれどまだあどけなさの残る顔は推定年齢16、7才。


ナニをするワケでもなくそこに立ち尽くしていた彼は少年を見ておや、という顔をした。



「おばちゃん、辞めたのか……」



いつも来るのは小太りの中年女性。


オカメのような真っ白いファンデーションに真っ青なアイシャドーと真っ赤な口紅。


イマドキ!?なおばちゃんの鉄板というべきキャラだった。


女性のいつまでも小奇麗でありたいという精神を知らぬでもないが、清掃会社の制服であるツナギに三角布という井出達にあえてその化粧をプラスするのがつくづく解せない彼である。