「好しなにお呼びくだせー。」
彼女は殺し屋である。
名前はまだナイ。
―――というか、出合った人の数程ある。
彼女は出合う人事に、名前を得る。
例えば、ある者が山田花子と命名したならば、彼女はその者にとって百パーセントの山田花子で在る。
然るに百人いたら百人の彼女があるワケで、それは言いかえれば名前の効力がないのではないか――――。
閑話休題。
彼女の言葉に彼は静かに瞑目した。
その姿に彼女こそが少しばかり驚いた。
あらら…この人マヂですよ。
このノリで、この提案。
この男の質であれば適当にあしらわれるか、いい加減な応えと踏んでいたのだが、然にあらず。
彼は彼女の推測を裏切って律儀に長考し出した。