お嬢様になりました。

静まり返ったカフェの中、暫く海堂との睨み合いが続いた。


半ば意地になってた。


ここで目を逸らしたら私の負けになる、って……。



「あ、の……僕が悪いんです。 僕が……海堂さんのシャツに水を、零してしまって……」



私たちに割って入ってきたのは、未だ海堂に手を踏まれている男子生徒だった。


水?


海堂のシャツを見ると、確かに裾の所が濡れていた。


でもよく見ないとわからない程度だ。



「ちっさ……」

「あ?」

「たかが水零されただけで大袈裟なのよ!! ほっときゃ乾くんだし一々そんな事で怒るなんて、器の小さい奴っ!!」

「お前ッ!!」



海堂は拳を振り上げ、私目掛けてその拳を振り下ろした。


朝の事で免疫が出来たのか、気持ち的には余裕だった。



「素直に当たってやる程優しくないの、私」



拳を避けると海堂は鬼の形相で私を睨み付けた。



「ッッ!?」



ホッとしていると突然胸元のブラウスをひねりあげられ、心臓が飛び跳ねた。


鬼の形相ながらも、整っている海堂の顔がすぐ目の前まで迫っていた。


近いよ……。



「宝生院だろうと何だろうと、これ以上俺に突っかかってきてみろ……マジで容赦しねぇからな」



突き飛ばす様にブラウスから手を離した海堂は、取り巻きを数人連れてカフェを出て行った。