お嬢様になりました。

床でもがく私を見て笑みを零す彼は、満足そうな顔をしていた。


悔しい。


こんな奴にいいようにされるなんてっ!!



「愛らしい唇は想像通り柔らかくて気持ちのいい唇だったよ。 僕たちの想い出の誓いのキス」

「想い出? 笑わせないでよ!! 私にとっては悪夢よッ!!」

「現実は誰にとっても悪夢だよ。 だから僕たちは幸せな夢の中へ行くんだ」



頭のおかしい彼の言葉が段々と頭の中に入ってこなくなってきた。


ここで眠ったら終わりだ……。


必死にもがく私を、彼は静かにただ微笑んで眺めていた。


どうしよう……私の意思とは裏腹に、瞼が重たくなってきた。


意識は朦朧とし、辺りがボヤけて見える。



「早く一緒になろう」

「い……や……」



ードンドンドンッ!!!!


な、に?


突然ドアを叩く大きな音が聞こえてきた。


男は落ち着きを無くし、うろちょろと動き回っている。


なんなの?


男の動きが止み、私の前で立ち止まった。



「痛い思いはさせたくなかったけど、邪魔が入ってしまったからしょうがない。 せめてもの償いに、僕も苦しんで君の元へ行くよ。 先に天国で待ってて」



もう、目が開かない……こんな時にあいつとのキスを思い出すなんて……私、どうかしてる。


っ!?


突然温もりに包まれ、涙が溢れた。



「無事で良かった。 もう、大丈夫……」



誰……?


最後の力を振り絞って目を開けると、赤く染まった背中が見えた。