お嬢様になりました。

「あの日って……何?」



この人何言ってるの?


こんな人、知らない……。


男は私の唇に指先を這わせ、体がゾクッと震えた。



「この愛らしい唇が、あんなに逞しい声を漏らすなんて本当に信じられないよ。 あの日、海堂から庇ってくれたじゃないか」

「庇った……? 私があんたを、庇った?」

「海堂の制服に水を零して、海堂を怒らせた僕を君は庇ってくれた」



っ……あの時の……。


あの時は正直自分の事でいっぱいで、周りの人を見てる余裕なんてなかった。


だから、海堂に罵声を浴びせられていた男子生徒の顔なんて覚えてない。



「何がしたいの?」

「声が震えてるよ? 何をそんなに怖がってるの? 何も怖くないよ」

「怖がってなんかないッ」



怖いに決まってる。


こんな奴に恐怖を抱くなんて情けないッ。



「僕と結婚して下さい」

「……え?」



結婚って……意味わかんない。


男はスボンのポケットに手を入れゴソゴソすると、何かを取り出した。


男の手の中に収まっている小さなボックスをみて、息を飲んだ。


中を見なくたって分かる。



「気に入ってもらえると嬉しい」



照れ臭そうに蓋を開けたボックスを差し出され、その中には大きなダイヤモンドが付いた指輪が入っていた。