お嬢様になりました。

何かが近付いてくる気配がする。


私はギュッと目を瞑った。



「止めてッッ!!!!!」



咄嗟に出た声は思ったよりも大きくて、そして信じられないくらい震えていた。


背中に回された手は大袈裟な程震え、自由がきかない。


縛られてるんだ……。


大きな声がいう事を聞かない体に作用したのか、すんなりと目が開いた。


目の前には黒髪で特にこれといった特徴のない顔をした男がいた。


相変わらず男の手は私の顔に触れている。



「触らないで……」

「どうしてそんな酷い事を言うの?」

「酷い事? 酷い事してんのはあんたの方でしょっ!!」



恐怖が消えたわけじゃない。


それでも怒りを内に秘めておく事はできなくて、男を怒鳴り付けた。


男は悲しそうな顔をして、私の顔をジーッと見つめている。



「やっと触れられたんだ……君の絹の様な滑らかな肌に……あの日からずっと君の事を想い続けていたんだ……その君が今こうして僕の目の前にいる。 温もりを感じられる。 幸せ過ぎて死んでしまいそうだよ」



うっとりとした表情を見せた男に鳥肌がたった。


今直ぐにでも男の手を振り払いたいのに、手はしっかりと縛られ、言う事をきかなかった。


蹴り飛ばそうにも足も言う事をきかない。


どんどん血の気が引いて行く。


手足を縛られてたんじゃ逃げられない……。