お嬢様になりました。

隆輝の居なくなった美術室に、どことなく気まずい空気が流れた。



「山口君……ごめんね……」

「ははっ、謝らないで下さい。 宝生院さんは何も悪くないじゃないですか」

「でも……」



私がもっとしっかりしてれば、山口君は殴られずに済んだかもしれない。


私の方が隆輝の性格を知ってるんだから。


最近はあんな暴力的な一面を見てなかったから、すっかり忘れてた。


隆輝がボンボン暴君だって事。


山口君が立ち上がり、私も直ぐに立ち上がった。



「ちょっと待ってて」

「え?」

「ハンカチ濡らしてくる」



慌てた様子の山口君を放って、私は美術室を出た。


胸の中がグチャグチャで、少し一人になりたかった。


水道の蛇口を捻りハンカチを濡らした。


冷たくて気持ちいい。


水の流れる音が、やけに大きく耳に届いてくる。


隆輝の怒った顔が頭から離れない。


あんなに感情を剥き出しにして怒ってる隆輝、久しぶりに見た。



「宝生院さん?」

「っ……」



横を見ると、心配そうな顔をした山口君が立っていた。



「ご、ごめんっ!! ちょ、ちょっと待ってね!!」



急いで蛇口を閉めハンカチを絞り、山口君の頬にハンカチを当てた。


痛みに顔を歪める山口君。


また謝りそうになる口を噤んだ。


暫くの間私たちの間に会話はなくて、そのまま廊下で立ち尽くしていた。