お嬢様になりました。

野菜を切る包丁の感覚が懐かしく感じた。


お祖父ちゃんと暮らすようになってからは、こうして料理を作る事がなくなった。


台所に立ったのは、玲へのブラウニーを作った時の一度きり。



「毎日佐和さんが料理されてるんですか?」

「仕事で家に居ない時以外はいつも私が作ってるわ。 主人も子供達も料理の才能ゼロなのよ」

「あははっ、そうなんですね」

「仕事をしてるからシェフを雇った方が楽なんだけど、子供たちには母親の味を知ってほしいのよね」

「そういうのって、素敵ですね」



佐和さんの作る料理は、どれも愛情たっぷりなんだろうな。


お母さんも忙しいのに、いつも料理は作ってくれてた。


だけどもうお母さんの味を忘れてしまっている気がして、少し寂しかった。



「家は息子しか居ないから、息子の彼女だったりお嫁さんと一緒に、こうして台所に立ってみたかったのよね」



佐和さんの言葉に思わず手が止まった。


どうしよう……もしかして、私の事玲の彼女だと思ってる?


そんなはずないよね?



「葵ちゃんが玲の彼女だったら、私はいつでも大歓迎よ?」

「佐和さん……」

「葵ちゃん、海堂さんの息子さんと婚約してるんでしょう?」

「……はい」



学校では私と隆輝が婚約している事は、あっという間に広がってしまったけど、まさか佐和さんまで知ってるとは思わなくて、少し驚いた。


婚約の事は、いったい何処まで知れ渡ってるんだろう。