お嬢様になりました。

私はもう余所見をせずに、玲の目をずっと見つめていた。


ドキドキと安心感、その両方が私の心を襲う。


不思議な感覚。



「その指輪は婚約指輪?」

「そうだよ、婚約指輪。 でもお婆ちゃんのね」



キョトンとした顔をする玲。


子供みたい。



「お祖父ちゃんがお婆ちゃんにプロポーズした時に渡した指輪。 お婆ちゃんの形見なんだ」

「葵によく似合ってる」

「ありがとっ」



私もいつかは誰かに婚約指輪をもらう日がくるのかな?


玲はいつか誰かに婚約指輪を渡すのかな?



「何?」

「なんでもないよ」



想像してしまった。


玲が誰かに婚約指輪を渡す場面を……。


胸に鈍い痛みが走るのはどうして?


分からない。


今ハッキリと分かるのは、玲と築き上げているこの関係を壊したくないという思いだけ。


演奏が止み、私たちも足を止めた。



「足踏まなくてよかった」

「上手だったよ」

「玲がリードしてくれたおかげだよ」



玲の肩越しに見える海堂の姿がどんどん大きくなっていく。


玲との楽しい時間が終わっていく。


私は名残惜しい思いを胸に、玲から手を離した。



「初めて踊った相手が玲で良かった」



玲の手が頬に触れ、滑らかに滑り落ちると私の顎をそっと掴み上げた。