お嬢様になりました。

女の子は静かに足を進めると、私の目の前で足を止めた。



「初めまして。 私、橘 エルザと申します」

「初めまして……宝生院 葵です……」



差し出された手を握ると、橘さんは笑顔でギュッと握り返してきた。



「知ってるわ。 隆輝さんの新しい婚約者の宝生院さん、よね?」

「…………」



綺麗な笑顔を浮かべている橘さん。


だけど気付いてしまった。


瞳の奥に潜んだ敵意に……。



「行くぞ」

「あっ……」



急に引っ張られ、私と橘さんの手はパッと離れた。


私の腕を掴み、無理矢理私を引いて歩く海堂。


海堂に声を掛ける余裕すらないくらい、私の心は揺れていた。


何でこんなに動揺してんの?


私は海堂の仮の婚約者なだけなんだから、彼女の事を気にする理由なんてない。


彼女のあの目に驚いただけ……きっとそう……。



「ここで少し待ってろ」

「海堂は?」

「なんか食べ物取ってきてやるよ」



そう言うと海堂は人ごみの中へと姿を消してしまった。


体から力が抜け、私は椅子に腰掛けた。


生の演奏が流れる中、皆笑顔で踊っている。


自分がどうしてこんな華やかな空間にいるのか、今更ながら可笑しくてしかたがなかった。


普通の家庭で育った私がこんなところにいるなんて……違和感だらけだよ。


ボーッと周りを見渡していると、知っている顔を見付けた。