お嬢様になりました。

ーコンコンコンッ。


ドアをノックする音がして、ゴシゴシ顔を拭いた。


部屋に入ってきたのは、私の分の朝食を用意した荒木さんだった。



「荒木さん、せっかく持ってきてもらったんですけど、下げてもらってもいいですか?」

「お身体の具合がよろしくないのですか?」



いつも通り私の目を見て、丁寧な口調で話をする荒木さん。


私が泣いた事なんてお見通しだろう。


私は首を横にふった。



「身体は元気です。 ただ食欲がわかなくて……。 お昼はちゃんと食べますから……」

「では、お飲物はご用意させて頂いても宜しいですか?」

「はい、お願いします」



荒木さんは私の前にミルクティーの入ったティーカップを置き、その隣にチョコレートの入った小さなお皿を添えた。



「チョコレートなら食欲がない時でもお腹の中に入れやすいかと思いますので、宜しければお召し上がり下さい」

「……ありがとうございます」



抑揚の無い静かな口調なのに、荒木さんの温もりを感じる。


ダメだって分かってるのに、涙のせいで視界がぼやけていく。



「葵お嬢様、少し失礼致します」

「え?」



真っ白いハンカチが頬に触れ、ハンカチ越しに温もりが伝わってくる。


その温もりと、荒木さんの指の動きにドキドキした。



「では、私はこれで失礼致します。 何かございましたらお呼び下さい」



そういうと荒木さんはサッと部屋から出て行ってしまった。